2009年11月16日月曜日

次世代スーパーコンピュータが必要な理由

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先日の事業仕分けによる次世代スーパーコンピュータ(次世代スパコン)の予算見直しで事実上の「凍結」との結論が出たことで、多くの人々から次世代スパコンについて注目が集まることになったが、情報不足のためか、一部誤解があるようだ。そこで、自分の知っている範囲で次世代スパコンについて記したいと思う。もし自分の知識が至らず間違っている場合は指摘して頂けると有り難い。

次世代スーパーコンピュータ

次世代スパコンは富士通のCPU、"Vinus" SPARC64 VIIIfxか、その後継CPUで構成する公算が高いが、このCPUはスカラ型だ。もともと、NECと日立がベクトル型のCPUを開発する予定であったが、撤退によりベクトル型とスカラ型の混成システムから、スカラ型のみのシステムに変更された。因みに、この富士通のCPU "Vinus"は現時点で世界最高速のCPUであり、国産で高速なCPUを開発できるのかという疑問も払拭できている。

ところで、この撤退により次世代スーパーコンピュータ開発について危惧する声が出たのだが、実のところ次世代スパコン開発に関わるユーザや開発者の一部では、開発がしやすくなったとして喜んでいたりする。もともとの混成システムでは、実用的に使う場合、ベクタ部はベクタ部のみの利用、スカラ部ではスカラ部のみの利用でしかパフォーマンスが出せず、これでベクタ部とスカラ部を一台に入れる意味があるのかというもっともな疑問が出ていたようだ。また、次世代スーパーコンピュータ開発実施本部のプロジェクトリーダーである渡辺氏がNEC出身であることからのあらぬ疑いもされずに済むようになったと思う。

NECと日立が撤退した理由として、百数十億円の負担が重荷になったと答えている。しかし、実際はそんな負担額では済まなかったというのが関係者間での通説だ。つまり、それ以上の巨額の開発資金を企業は自腹で負担しなくてはならなかったのだ。では何故そのような負担をしてまでも次世代スパコンに参加したかったのか。それは「世界一高速なコンピュータを作りました」という事実が企業にとって非常に大きな宣伝になるから。世間一般ではそれで世界一の技術があると見なしてくれるのだ。それに、売り上げももちろん重要だが、技術者の士気も上がることのメリットが大きい。技術者の士気はなかなか目に見えにくいものだが、そういう技術者の士気があってこそ、今日の技術立国日本に成長したのだと思う。そして、国や理研側としては実際にかかる費用よりかなり割安に開発できるのだからある意味Win-Winの関係という訳だ。

因みにスパコン開発のために必要な総費用は1,154億円(現在ではNECと日立の撤退により若干増えて1,230億円)は7年間の総費用であり、それにこの金額はスパコンで利用するアプリケーション開発や研究、センターの建設などすべてを含めた費用であり、ハードウェア作製の資金はこの中の一部が担っている。これを考えると決して高い予算ではないように思う。

次世代スパコンについてもっと詳しく知りたい場合は、理化学研究所 次世代スーパーコンピュータ開発実地本部が参考になる。

研究者からみたスーパーコンピューティング

スパコンを利用する研究者からしてみれば世界トップレベルの速いコンピュータ(CPUだけではなくメモリやネットワークのレイテンシを含む)がちゃんと利用できればそれでいいのだが、それにはまず国がちゃんと音頭を取ってくれないとそんな素敵なコンピュータは使えないわけで、国がやるなら日本のためにということで、前述の次世代スーパーコンピュータということになる。

で、本当に重要なのは次世代スパコンを使った実際の研究であり、そのためにグランドチャレンジ・アプリケーションの研究開発などのプロジェクトがある。これは、ライフサイエンス分野ナノテクノロジー分野が対象で非常に大きな役割を果たすと思われる。これらに加えて産学の研究者・技術者へのインフラとしての意味合いも強い。共同利用を積極的に推進しているのだ。

実はこれには訳があって、前回の地球シミュレータ運用の際に、アプリケーション開発が難しい、特定分野に偏っている、申請が通りにくいなどの問題点が指摘されたので、よりよく研究に利用してもらうにはどうしたら良いかという視点からこのような方針になったようなのだ。そして、すでに複数の大学や研究機関との連携をとりつつある。

という訳で、今後代替措置もなくスパコンが使えなくなったりすると産学の基礎研究、応用研究に大きなダメージが出ることは間違いないと思う。

予算「凍結」について

ここでは政治が云々、政党が云々というつもりはない。どのようにすればスーパーコンピューティングの重要性を理解してもらえるか考えてみる。

今回の事業仕分けによる次世代スパコン「凍結」の際、以下のような意見が出た。

「世界一を目指す理由は何か。2位ではだめなのか」
「一時的にトップを取る意味はどれくらいあるか」
「一番だから良いわけではない」

実際にこう思っている一般の方々もいると思う。それに対して、前述の理研のページで一般の方にも分かる説明が出ている。

トップの座にいられるのは、わずか数年なんですね。

個々の研究者や科学を理解している人たちも早速ブログやTwitterで多くの意見を出している。このような議論は積極的に行うべきだと思うし、多くの人の目に触れれば触れるほど認知度は上がってくるはずだ。また、今回の事業仕分けについて文科省でも意見を募集しているので、ここで意見を述べるのも効果があるかもしれない。

さらに、一部の議員の方にも次世代スパコンについては理解してもらっているようで、民主党の藤末健三議員のブログTwitter木俣佳丈議員のブログでも言及されている。

以上をまとめると、技術力の維持と科学の発展のために次世代スパコンは必要であり、このような理由を積極的にアピールして一般の方々にそれを知ってもらうことが大事なのだと思う。

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